蔦屋展制作日記1:好奇心のキャビネット Cabinet of Curiosities

9月1日より、作品展「フォッグ氏の森の標本棚」が代官山蔦屋書店・自然科学の小部屋にてスタートします。絵本『森のささやきの標本室』の複製原画・オリジナル立体作品を展示いたします。


たなか鮎子作品展ー蔦屋

「キャビネット・オブ・キュリオシティ Cabinet of Curiosities」という言葉をご存知でしょうか。

ウイキペディアなどでは驚異の部屋(きょういのへや)と訳されているようですが、どちらかといえば「好奇心の陳列棚」みたいな訳の方がイメージに合っている気がします。

Cabinet of Curiositiesとは、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパで作られた、様々な珍品を集めた博物陳列室のこと。世界の珍しいものを貴族やお金持ちが収集して一般に公開したのが始まりのようです。動植物や鉱物、遺物や考古学的なもの。のちの博物館や美術館、動物園という概念にもつながっています。

私自身も、大の博物館ファン。日本はもちろん、ヨーロッパのいろいろな博物館を訪ねてきました。大英博物館や偉大な蒐集家サー・ジョーン・ソーンズ美術館、ミュンヘンやパリの自然史博物館や工芸博物館。個人の蒐集家の部屋や私設美術館なども。 *LINK : ちょっとパンクなパリ自然史博物館

自分でもやってみたくなり……

さて。そうやっていろんな博物館を見ているうちに、「私もやってみたいな…」と思うのが人情。無謀というか自然な流れというか… 笑

2209蔦屋展-たなか鮎子
アンティーク好きで、ロンドン時代からずっと集めています

話し始めると長くなるのでやめますが、自分のコレクション箱を制作するアーティストは結構多いのです。有名なのは、ジョセフ・コーネルの箱。あれを見ると、皆自分バージョンをやりたくなっちゃうようです。

ロンドンの大学院で友人がこのキャビネットをテーマに卒制を作っていて、その時一緒にいろいろなサンプルを見たのも大きかったのかもしれません。卒業してからもずっと頭の片隅にそんな思いがあり、その後の立体制作につながっていきました。

私がずっと作りたかったのは「架空のコレクションルーム」。現実のモノではなく、「フィクションの世界から集めてきた何か」を収集する展示です。考えるだけで、ちょっとワクワクしてきませんか?

絵本の世界を体現したキャビネット

この夏、絵本の原画展で東京に滞在していた折のこと。陳列棚を使った展示をしませんか? というオファーをいただきました。

会場は、あの素敵な蔦屋代官山さん。出たばかりの新刊絵本「森のささやきの標本室」をテーマに、自然科学の小部屋というスペースのキャビネット(標本棚)を使って展示をしてほしいというお話です。

「ぜひ」とふたつ返事でお受けしたのはいうまでもありません。

架空の標本室で、森の空気をリアルに感じてもらえたら。ワクワクしながらフランスのアパートに戻り、制作を開始しました。

絵本「森のささやきの標本室」について

ちなみに「森のささやきの標本室」は、この夏A&F出版さんから出していただいた絵本です。「森の音」をテーマに、ヨーロッパの森の空気感を描いた物語で、アウトドア専門のメーカーさんであるA&Fさんならではの、自然にちなんだ内容になっています。
絵本詳細はこちら

森のささやきの標本室表紙

霧の精・フォッグ氏は、そこに登場する、変わり者の蒐集家です。森の奥でひっそりと暮らしながら、いろんなものを集めるフォッグ氏。彼のキャビネット(標本棚)をのぞいてみましょう……というのが、今回の展覧会のコンセプト。実際の陳列棚を彼の標本室に見立てて作品展示することになりました。持ち物であるアンティークグッズも並べます。

うわー。楽しそうすぎて頭がぐるぐるしてくる〜。と、盛り上がりまくっていた私ですが…。

絵や通常の立体とはちがう制作プロセス

準備を始めてみると、なかなか先に進みません。毎日考えているのに、毎日何か集めてるのに、一向に作品が出来上がらない。

持っている素材を並べてみた

いつもの個展や絵本原画展とは制作プロセスが全然ちがうのです。実際の植物や鉱物が集まらなかったり、木やガラスをが合わなかったり、思ってもみなかった素材の制約に道をふさがれてしまいます。オリジナル制作なら気まぐれに変更できることも、できなかったり。

もうひとつの課題は、現地とのコミュニケーション。
今回は、私自身の帰国が叶わないため、現地の売り場の方々とのコミュニケーションが大切でした。百戦錬磨の売り場の担当さんですが、私の伝え方がマズいときっと伝わらない。計画設計は必須です。

普段「計画」という言葉とは無縁の人間が、計画…。まさにチャレンジ。

…というわけで、山あり他にあり、興味深いプロセスだったので、数回に分けて自分なりに振り返れればいいなと思っています。またぜひ読んでくださいね。

次回は実際の作品紹介をかねて、そんな制作過程の一部をお話しできたらと思います。

たなか鮎子作品展「フォッグ氏の森の標本棚」
Mr. Fog’s Cabinet of Forest Whispers

代官山蔦屋書店1号館 1階 ブックフロア (自然科学の小部屋)
2022年09月01日(木) – 09月30日(金)

詳細

絵本『森のささやきの標本室』(A&F出版)刊行を記念して、代官山蔦屋・自然科学の小部屋にて『森のささやきの標本室』の複製原画・オリジナル作品を展示いたします。

絵本の登場人物フォッグ氏の標本棚(キャビネット)をイメージしつつ、一点ものの標本箱やボトルオブジェ、オーナメントなどの立体作品を展示します。作家がドイツやフランスの骨董市で集めてきたアンティークグッズも展開します。

ファンタジーと自然科学が融合した不思議な小空間、ぜひご覧頂けたら幸いです。